メンデルスゾーンとシューマン
「メンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けられることができた。」
という文章が村上春樹の「色彩を持たない多崎つくると 、彼の巡礼の年」に出てきます。言葉を補足すると、「自分にはできないが、彼はメンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けられることができた。」となります。
つまり、メンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けられることはかなり困難なことであり、それができる彼は特殊能力を持っている(あるいは、きわめてクラシック音楽に造詣が深い)かのように語られています。
ここで、クラシックファンである私は深く考えました。メンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けることについて、より具体的に考えました。
・ピアノ協奏曲
シューマンはピアノ協奏曲は書いていて、そこそこ有名です。録音も相応にあります。しかし、メンデルスゾーンは書いていますが、有名ではなく、演奏機会はほとんどないと思います。
つまり、ピアノ協奏曲に関していえば、聴き分ける以前に、それがシューマンの曲であると判明してしまいます。
※私はメンデルスゾーンはピアノ協奏曲は書いていないと思っていましたが、本稿を書くために改めて調べると書いていました。
・ヴァイオリン協奏曲
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲は、3大コンチェルトの一つに挙げられている非常に有名な曲です。シューマンも書いていますが、あまり演奏されていません。
ヴァイオリン協奏曲についていえば、メンデルスゾーンのほうが極めて有名であるため、聴いてすぐにわかるはずです。
・ピアノ曲
ピアノ曲は私は不案内な領域です。
シューマンはトライメライという超有名曲を作曲しており、それ以外にもいくつか有名な曲があります。メンデルスゾーンはそれほどの名曲は作っていないと思っています。
トライメライであれば、すぐにシューマンであると聴き分けられます。それ以外でも、世に出回っている演奏の多くがシューマンであると思われます。つまり、演奏を聴いて、「シューマン」と答えておけば概ね正解になろうかと思います。
・交響曲
問題は交響曲です。
シューマンは4曲、メンデルスゾーンは5曲書いています。メンデルスゾーンの最初の2曲は若書きであるため、演奏されるのは3番以降です。演奏機会は同程度との印象です。
確かに、交響曲を聴いて、これをシューマンとメンデルスゾーンと聴き分けるのは困難であると思います。
ちなみにシューマンの交響曲は、チェリビダッケの演奏が素晴らしいと個人的には思っています。この話はいずれ。
・その他
オペラ・宗教音楽・管弦楽・歌曲などのジャンルでそれぞれ曲を残していますが、両者を比較するような曲はないと思います。メンデルスゾーンは管弦楽「真夏の世の夢」(結婚行進曲が入っている)という名曲を作っていますが、それに比肩しうるシューマンの曲はなさそうです。
というわけで、私の勝手な私見に基づく分析ですが、メンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けるのが難しいのは、交響曲に限ってのことであると考えます。
クラシック音楽は、時代と地域によってカテゴライズされます。シューマンとメンデルスゾーンは同世代(1歳違い)かつ活動エリアも極めて近いので、同じジャンルで比較すると、かなり似たような曲を書くのは当然とも言えます。
つまり、この「メンデルスゾーンとシューマンの音楽を聴き分けられることができた。」という文章は、メッセージ性が深いように見えて、実はさほどメッセージ性があるわけではない、というのが私の結論です。
むろん、だからと言ってこの書籍の価値が下がるわけではないし、私が村上春樹のファンであることは変わりません。今後も、彼のクラシック音楽に関する文章を楽しみに読んでいきたいと思います。